【3】「検索」の限界と、人の声という最短ルート。

スマホを閉じて、プロに訊く。――最速で正解に辿り着くための「対人リサーチ術」

バス停に立って、俺はしばらく動けなかった。

目の前に、バスが三台いた。

三台とも、同じ番号を掲げている。でも、それぞれが微妙に違うルートを走るらしい。そういう情報を、どこかで拾った気がする。気がする、というのがまた厄介で、確信があるわけじゃない。今日の現場は、電車を降りてからさらにバスに乗り換える必要があって、そのバス停でいま、俺は立ち尽くしているのだ。

いつもどおりスマホを取り出した。

降りるべきバス停の名前を検索窓に打ち込む。地図が出てくる。バスの路線が出てくる。でも、画面に表示されているものと、目の前にある三台の現実とが、どうしても噛み合わない。現在地とルートの整合性が取れない。地図の上ではわかっているのに、目の前に立つと途端にわからなくなる、あの感覚。

そうこうしている間に、一番前のバスが、動きそうな雰囲気になってきた。

エンジンの低い音。運転手が前を向く。出発の気配。

目次

「ひとりで解決しなければ」という強迫

考えてみれば、俺は長い間、何でも自分ひとりで解決しようとしてきた。

迷ったら調べる。それはいい。でも「調べてもわからない」という状況になった時、人に聞くという選択肢が、なかなか出てこなかった。どこかで、人に聞くことが「負け」のような気がしていたのかもしれない。自分のリサーチが足りなかったことを認めるようで。準備不足を晒すようで。

プライド、と言えば聞こえがいいけれど、実態はただの非効率だ。

立ち往生したまま時間を使い続けることの方が、よっぽどコストが高い。間違ったバスに乗って、遠回りして、現場に遅刻する。そのリスクを考えれば、「自分で調べきれなかった」という小さな恥なんて、比べ物にならないくらいちっぽけだ。

でも、わかっていても、体が動かないことがある。

俺はスマホを見続けた。地図を拡大したり縮小したりしながら、まだひとりで正解を探していた。

運転手さんに、聞いてみた

バスが、本当に出発しそうになった。

俺は意を決して、運転席の窓口のところに歩み寄った。

「すみません、このバス、◯◯に行きますか?」

運転手さんが振り向いた。一秒もかからなかった。

「はい、行きますよ」

それだけだった。

スマホで五分うろうろしても出なかった答えが、一瞬で手に入った。俺は前払いの料金を払って、席に座った。座れた♪ 窓際の席だった。今日は運がいい、というより、聞いたから乗れた、という感じだ。

バスが走り出す。

窓の外を、街が流れていく。さっきまでバス停で立ち尽くしていた俺が、いまはちゃんと動いている。進んでいる。正しいルートで。

こんな当たり前のことが、なんだかじんわりと嬉しかった。

究極の検索エンジンは、「人」である

検索、という言葉について、俺は少し考え直している。

お金の情報を調べることを仕事にしている俺が言うのも何だけれど、検索というのはGoogleの検索窓を叩くことだけじゃない、と思う。

世界には、知恵を持っている人間が溢れている。

バスのルートなら運転手さん。道に迷ったなら地元のおじさん。仕事の手続きなら窓口の担当者。料理の火加減なら長年やっている料理人。その道で生きてきた人間の頭の中には、どんな検索エンジンにも載っていない、リアルタイムの正解がある。

人に聞く、という行為は、その人のデータベースに直接アクセスすることだ。

自分という閉じたシステムを、少しだけ開いてみること。「わかりません、教えてください」という言葉を一言言うだけで、膨大な時間と精神的コストを節約できる。これほど効率のいいリサーチ技術は、そうそうない。

弱さじゃない。これは、賢さだ。

俺が「ひとりで考えすぎ」だった話

今になって思い返すと、俺はかなり「ひとりで考えすぎ」だったと思う。

仕事のことも、お金のことも、生活のこともだ。誰かに相談すれば一瞬で解決したようなことを、ひとりで何時間も悩んでいたことが何度もある。なんというか、悩んでいることで「ちゃんと考えている」という感覚があったのかもしれない。思考の中に閉じこもることで、自分が真剣だという証明をしようとしていたのかもしれない。

でも実際は、ただ遅かっただけだ。

答えは外にあったのに、俺はずっと内側を掘り続けていた。

もちろん、自分で調べることは大事だ。それは続けたい。でも「自分で調べた上でわからないこと」については、早めに人に聞く。プロに訊く。その使い分けができるようになると、たぶんいろんなことが、もう少しスムーズに動き始める気がする。

今日のバスの一件が、そのことをわりとシンプルに教えてくれた。

答えは、運転手さんが持っていた。俺のスマホじゃなくて。

リサーチとは、窓を開けることだ

お金を検索することが俺の仕事だとすれば、そのリサーチの質を上げるためには、自分という窓を開き続けることが必要なんだと思う。

情報は外にある。知恵は人の中にある。正解は、自分ひとりの頭の中だけに閉じ込めておけるほど、小さくない。

スマホを閉じて、顔を上げて、目の前の人に声をかける。

それだけで、霧が晴れることがある。

バスは今日も、ちゃんと目的地に向かっている。俺を乗せて。

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