警備の夜勤中に考えた、お金が貯まらない本当の理由

深夜2時の駐車場は、音がない。

正確には、音がないのではなく、意味のある音がない。風の音、遠くを走るトラックのエンジン、自分の靴底がアスファルトを踏む感触。そういうものだけが、ある。

隊長という肩書きをもらって、もう何年か経つ。でも財布の中身は、肩書きと比例しない。

それが今の、私の現実だ。

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「収入が上がれば貯まる」と信じていた

お金が貯まらない理由を、私はずっと「収入の問題」だと思っていた。

給料が上がれば、貯まる。残業が増えれば、貯まる。そう信じていた。

信じていたが、貯まらなかった。

夜勤の暇な時間に、スマートフォンを取り出した。画面の明かりだけが、アスファルトを白く照らす。検索窓に打ち込んだ。

「お金が貯まらない 本当の理由」

ファイナンシャルプランナーや経済系のサイトが、山ほど出てきた。どこも判で押したように同じことを言っている。

「収入の10〜20%を先取り貯金しましょう」「固定費を見直しましょう」「家計簿をつけましょう」。

読みながら、正直に思った。

綺麗事だ。

先取り貯金って、先取りした残りで生活が回る前提じゃないか。固定費の見直しって、何度もやって、もう削るものがない人間はどうすればいい。

家計簿って、つけるたびに現実を突きつけられて、嫌になってやめる、あれか。

一つだけ、引っかかった言葉があった

それでも、もう少し読み進めた。

そこに、一つだけ引っかかる言葉があった。

「支出は収入に合わせて膨らむ」

行動経済学の話らしい。収入が増えると、人間は無意識に生活水準を上げる。これを**「ライフスタイル・インフレーション」**と呼ぶ、と書いてあった。

要するに、給料が上がった分だけ、知らないうちに使う額も増える、ということだ。

駐車場の端で、コンビニの袋が風に転がっていた。フェンスに引っかかって、止まった。

ライフスタイル・インフレーション。

難しい言葉だが、私には心当たりがある。

隊長になった年、少しだけ給料が上がった。そのとき、夕飯のコンビニ弁当が、少しだけ豪華になった。缶コーヒーが、ちょっといいやつになった。それだけだ。

大きな浪費じゃない。でも、「それだけ」が、毎月続いた。

収入の増加分が、そのままじわじわと支出に溶けた。

なるほど、これか。

綺麗事だと思ったリサーチが、自分の行動を言い当てていた。少し、悔しかった。

意志が弱いからじゃない、と今は思う

お金が貯まらない本当の理由は、意志が弱いからじゃない。

「使う理由」が、いつでも正当化できるからだ。

疲れたから。寒かったから。今日は特別だったから。

全部、嘘じゃない。全部、本当だ。だから始末が悪い。

人間の頭は、自分を納得させることに関して、驚くほど優秀にできている。私はその優秀さを、貯金ではなく消費のために使い続けてきた。

これも調べてみたら、「自己正当化バイアス」という名前がついているらしい。人は無意識に、自分の行動を肯定する理由を後から探す生き物なんだそうだ。

知識として知ることと、それを止められることは、また別の話だけれど。

仕組みで「引っかかる」場所が要る

午前3時になると、風が少し止んだ。

フェンスに引っかかっていた袋は、まだそこにある。

転がるのをやめたのは意志があったからじゃない。ただ、引っかかる場所があっただけだ。

私にも、そういう「仕組み」が要る。

意志じゃなく、仕組みで引っかかる場所。

給料日に自動で別口座に移す設定をする、とか。使う前に一呼吸おいて検索する癖をつける、とか。そういう、小さな「フェンス」を作ること。

答えはまだ出ていない。でも夜中に一人で考え続けているうちは、まだ諦めていない。

それだけは、確かだ。

岡根健作のひとりごと

「ライフスタイル・インフレーション」という言葉、初めて知った。収入が増えると支出も自然と増える、という心理のことだ。怠けているわけじゃなく、人間がそういう構造になっているらしい。

だとしたら責める相手は自分じゃなくて、仕組みを作っていない自分、ということになる。少しだけ、楽になった。

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